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連載コラム 並木麻輝子のお菓子な歳時記
第3回 復活祭を祝う仔羊型の菓子 アニョー・パスカル

フランス語でアニョーは「仔羊」、パスカルは「パック=復活祭の」という意味。フランスをはじめとするキリスト教国では、クリスマスに勝るとも劣らぬ重要な行事とされているのが復活祭。文字通り、イエスが十字架にかけられた3日後に「復活」したことを記念するお祭りで、毎年「春分の日の後の、最初の満月の次の日曜日」に祝われる。日程は年ごとに異なり、2019年は4月21日(日)。さらに、翌日の月曜日も「復活祭の月曜日」と呼ばれる法定休日だ。

この時期、フランスのどこの町のお菓子屋さんにも、誕生や豊穣の象徴である「卵」や、繁栄のシンボルとされる「ウサギ」などをモチーフにしたお菓子(とくにチョコレート)が、ところ狭しと並ぶ。ウサギ型のチョコの中から卵チョコが出てくるなど、楽しいチョコ in チョコも数多く登場。これらと並び、地方で受け継がれてきた復活祭の伝統菓子も見逃せない。その筆頭ともいえるのがフランス北東部、アルザス地方の「アニョー・パスカル」。アルザス語では「ラマラ」、「オステルラマラ」とも呼ばれる仔羊形の焼き菓子で、復活祭の時期にのみアルザスで作られてきた。

基本的には、卵黄と卵白を別立てにしたビスキュイ生地を焼いただけのシンプルなお菓子だが、注目したいのがこれに使う型。「アルザス焼き」の村として、1000年近くの歴史を持つスフレンハイムの工房で作られたもので、このお菓子専用。熱がじんわり均一に伝わる厚手の陶器型は、仔羊の頭からお尻まで、パカッと二つに分かれるようになっていて、焼く時には二つを合わせて専用の金具で止め、生地を流して焼成。窯から出して陶器を左右に開くと、中からふっくらとした焼きたての甘い仔羊が登場するというぐあい。

なんで仔羊なの?

そもそも、なんで仔羊の形なのかといえば、もともとユダヤ教の「過ぎ越しの祭り」の際に、生け贄として仔羊を食べてきた習慣に由来するそう。また「神の子羊」と呼ばれていたイエスの復活を祝うためなど、ほかにも仔羊にまつわる説が多々。歴史は古く、16世紀にはこのお菓子の前身となるものが作られていたという。事実、当時の男性が、1519年、フィアンセにアニョー・パスカルを贈ったとアルザスの神学者トーマス・マナーの手紙に書き残されている。またアルザス地方ゲルトウィラーのパンデピス博物館には、18世紀にスフレンハイムで作られた、おそらく現存する最古のアニョー・パスカル型が展示されている。

その昔、四旬節の期間中、人々は食の節制に努め、肉や卵、乳製品を摂らなかった。が、その間も鶏はおかまいなしにせっせと卵を産み続けたため、四旬節が明けると(つまりイースターの頃には)、たまった卵を友人やご近所に贈ったそう。アルザスではその卵を消費するため、主婦やパン屋がアニョー・パスカルを焼き、それが徐々に定着して、現在のような祝い菓子になったということだ。仕上げは表面に粉砂糖をたっぷり振り、リボンを巻いたり旗のついたピックを差す。現在はリボンや旗の色もさまざまだが、伝統的には首に赤いリボンを結び、アルザスの旗の色である赤と白、またはバチカン国旗の色である黄と白の旗を背中に立てる。

最近は日本でもちらほら見かけるようになった「アニョー・パスカル」。今年の復活祭シーズンには、イースターエッグと並び、この甘い仔羊のことも思い出してあげよう。

並木麻輝子(なみきまきこ)
料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家
パリの料理学校ル・コルドン・ブルーの製菓・料理上級課程終了。ヨーロッパ各地の料理・菓子を舌で確認しながら自ら取材した経験を生かし、書籍、雑誌、ガイドブック等を執筆する傍、コメンテーター、大学の生涯学習クラスやカルチャースクール講師、テレビ、ラジオ番組制作コーディネーター、レストラン等のアドバイザー、講演など食関係のあらゆる分野で活躍中。

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