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並木麻輝子のお菓子な歳時記

第7回 中国の中秋節を彩る「月餅」

旧暦の8月15日(新暦の9月~10月初旬)にあたる「中秋節」は、春節(旧正月)、端午節と並ぶ中国三大節の一つ。
ちなみに「中秋」とは秋のまん中のこと。なぜ8月15日が秋のまん中なんだと言われそうだが、旧暦では現在の7~9月が秋。そのまん中にあたる日が8月15日というぐあい。中秋節の日は毎年変動し、2019年は9月13日、来年は10月1日となる。

中秋節の起源は、今を遡ること3000年以上前。もともとは月を崇拝する古代の祭りがはじまりといわれている。時代は変わっても、ずっとこの祭りの象徴とされてきたのが満月。丸い月は団欒を意味するため、中秋節=「団欒節」とも呼ばれる。この日は遠方に住む子供たちも実家に戻り、みんなで月を愛でたり、ともに食卓を囲んで家族団欒の時間を楽しむのが昔からのならわしだ。
この席に欠かせない食べ物が月餅(ユエピン)。円い形は「満月」と「団欒」の二つの意味を持ち、これを切り分けて家庭の円満と健康を祈りつつ、みんなで分け合いながらいただく。また親しい人や同僚などと月餅を贈り合うのも古くからの習慣だ。

中秋節に中国全土で月餅を食べるようになったのは、明代の頃からといわれる。一説には元を倒した明の皇帝が、元軍の監視が厳しいなか、月餅の中に作戦を書いた密書を隠して仲間に伝え、中秋節に決起。無事に勝利を勝ち取ったという。その勝利を記念して明の皇帝が中秋節に月餅を食べることを提唱したと伝えられている。
ひとくちに月餅といっても、中国各地、土地や作り手により千差万別。月を模しているので、基本的には円形だが、四角形や花型、キャラクターを象ったものも。まわりの生地だけ見ても、糖蜜を混ぜ込んだ「提漿(ティジャン)」、パイ皮「酥皮(スゥピィ)」、米粉を合わせた「冰皮(ビンピィ)」に分かれ、小豆餡や胡麻餡などの定番から、アイスクリームやクリームチーズ、トリュフ風味といった変わり種まで枚挙にいとまがない。本来、月餅は焼き菓子の一種だが、1989年に香港で誕生した「冰皮」(英語名はスノースキン)タイプは、焼かずに仕上げた餅スイーツ風で、冷やしていただくのがお約束だ。

違いが楽しい4大月餅

地方発祥の月餅の中でも、「広式(広東風)」、「京式(北京風)」、「蘇式(蘇州風)」、「潮式(広東省東部地域風)」の4大月餅は特に有名。
もっともポピュラーな「広式」は糖蜜入りの皮に餡を包み、特製の木型で抜いてから焼成。日本で広まったのもこのタイプで、皮が薄く餡が多いことや、表面にくっきりとした模様が描かれているのが特徴だ。もともとは19世紀後半、広東省のお店が売り出した蓮の実餡入り月餅が「広式」の元祖。そのため、蓮の実餡は当地の月餅の代表的存在とされている。また蓮の実餡と一緒に、茹でた鹹蛋(シャンダン/アヒルの卵を塩水に漬けたもの)の黄身を詰めたものは、昔から中秋節の定番。断面からのぞく黄身はまさに満月のごとし。黄身と餡が重なる甘じょっぱい味わいも印象的だ。

北方生まれの「京式」は、皮と餡の比率が2対3と皮がかなり厚め(広式は1:4)。北方の主食は粉ものということもあり、具とともに皮の味わいを楽しむ構成に。形は丸みのあるドーム型で、一見お饅頭のよう。中はどっしりとした小豆餡や白餡、「五仁餡」(クルミ、アンズの種、オリーブの種、ひまわりの種、ゴマといった5種のナッツを主原料とした餡)など、皮に負けない存在感のあるものが多い。

「蘇式」は、ラードなどの油脂を合わせたサクサクの白いパイ生地を使用。パッと見はおやき風で、甘いものと並び、魅力的な塩味系が充実。鮮肉月餅(中国風ミートパイ)、中華ハム、豚肉、ネギ油、山椒塩など、いずれもスナックとして人気が高い。

広東省・潮汕地域で育まれた「潮式」の月餅は、皮が繊細な渦巻状になっている点が大きな特徴。これは生地を延ばしてロール状に巻き、はじからスライスして、断面の渦巻きを上に向けて餡を包んでいるため。具は小豆餡をはじめ、緑豆や黒豆餡、タロイモや紫芋などの芋餡、海鮮などの総菜系もある。

予想外に奥深い中国の月餅文化。次回食べる際には、その背後に息づく悠久の歴史にも思いを馳せてほしい。

並木麻輝子(なみきまきこ)

料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家
パリの料理学校ル・コルドン・ブルーの製菓・料理上級課程終了。ヨーロッパ各地の料理・菓子を舌で確認しながら自ら取材した経験を生かし、書籍、雑誌、ガイドブック等を執筆する傍、コメンテーター、大学の生涯学習クラスやカルチャースクール講師、テレビ、ラジオ番組制作コーディネーター、レストラン等のアドバイザー、講演など食関係のあらゆる分野で活躍中。

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