料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家 並木麻輝子のお菓子な歳時記| SALUS ONLINE MARKET
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並木麻輝子のお菓子な歳時記

2019.11.01

秋から冬の美味「栗スイーツ」

やっと秋らしくなってきた今日この頃。日本はこの時期、和洋問わず多彩な栗スイーツに彩られるけれど、他国にはどんな栗のお菓子があるのだろうか。フランス、イタリアを中心に、いくつかご紹介しよう。

日本でもおなじみ「モンブラン」

ヨーロッパの栗菓子と聞いてまず思いつくのがアルプスの名峰をイメージしたモンブラン。フランス語で「白い山」という意味を持つこのお菓子、日本ではどこの菓子店でも出合えるけれど、じつはフランスではそれほどポピュラーなケーキではない。最近はチラホラ見かけるようになったものの、通年出し続けているのは、モンブランの名店として知られるパリの老舗「アンジェリーナ」ぐらいだろう。
由来については、かつてアルプス周辺の地域を統治していたサヴォイア家発祥といわれているが、それ以前から、モンブラン山麓の家庭では、その前身となるお菓子が作られていたようだ。 構成は、底にメレンゲ、その上に生クリームをこんもりと配し、表面をマロンクリームで覆ったスタイルが一般的。ちなみに、コレと同じ構成ながら、名前が異なるケーキがフランスの北東部アルザス地方に存在する。その名も「トルシュ・オ・マロン(栗のたいまつ)」といい、絞り出したマロンクリームの形状がたいまつをイメージさせるためこの名がついた。こちらは比較的ポピュラーな存在で、シーズン中は定番商品の一つとして現地の菓子店に並ぶ。イタリアでの呼び名は「モンテビアンコ」。これもまた「白い山」という意味で、サヴォイア家の本拠地があったピエモンテ州や、その近隣のみで見かける地域限定のお菓子だ。構成は我々がよく知るモンブランとは逆で、マロンクリームを下に絞り、表面を生クリームで覆う。ちなみにスイスで出会うものは仏伊混合。基本構成はフランスと同じだが、名前はイタリア語で「ヴェルミチェッリ(極細のパスタ)」と呼ばれている。

ヨーロッパらしい「栗粉のスイーツ」

栗菓子の中でも、ちょっとおもしろいのが栗粉をつかったもの。なかでもイタリア、トスカーナ地方生まれの「カスタニャッチョ」は有名だ。トスカーナは、ピエモンテ地方と並んでイタリア屈指のカスターニャ(=栗)の産地とされ、秋から冬にかけてはスーパーや市場にも栗の粉が並ぶ。カスタニャッチョはこの栗粉に水と塩、レーズン、オリーブオイル、松の実を合わせて焼成。焼く前に上に生のローズマリーをちらす点や、あまり厚みを持たせず、2cm厚前後に焼き上げるのが特徴だ。栗の自然な甘みと、微かに香るローズマリー、レーズンや松の実の食感が印象的。デザートのほかおやつや朝食、ワインとともに楽しむ人もいるようだが、もともとは貧しい農民たちが空腹を満たすため、近くで採れる栗を使って作ったものがルーツだそう。今でこそレーズンなども入っているけれど、当時は栗の粉だけでシンプルに作られていたそうだ。

もう一つ、栗粉を使ったトスカーナの名物に、栗の粉に水や塩、オリーブオイルを合わせた栗風味のクレープ「ネッチ」がある。何を合わせるかは人それぞれだが、ご当地産のリコッタチーズにハチミツなどで甘みをプラスして食べることが多い。

栗粉といえば、忘れてならないのがフランス最南端に位置するコルシカ島。ここは平地が少なく、小麦が栽培できかったため、かつての島民たちは栗粉のパンなどの主食はもちろん、料理の具材や付け合わせ、おやつ、加工品まで、栗に依存して生活していた。そのため当地では栗製品が非常に充実している。なかでも名高いのが栗粉のクッキー「カニストレリ」。コルシカ産の栗粉にオリーブオイルなどを合わせた非常に素朴なご当地名菓だ。他にも栗粉入りのケーキやクレープ、栗粉を練ったポレンタ、栗の粉を混ぜた「ピエトラ」ビール、栗粉モノではないが、栗のハチミツやビネガー、ジャム、ペースト、プリン、アイスなどなど、さまざまな栗名物がひしめいている。

ところ変われば焼き栗も変わる

秋から冬にかけて、ヨーロッパのあちこちで見かけるのが焼き栗の屋台。日本には熱した小石の中に栗を入れ、砂糖をかけながら煎った「甘栗」があるけれど、ヨーロッパでは甘くない(プレーンな)焼き栗が主流。基本的には食べやすいよう、皮に切り込みを入れたものをそのまま焼くため、ほんのりとした栗本来の甘みが楽しめる。ただし例外もあって、ポルトガルの焼き栗は、仕上げに軽く塩をまぶしているため、おやつというよりおつまみ感覚。ほどよい塩気が栗の甘みを引き立て、クセになること請け合いだ。またヨーロッパでは生の栗を購入して、自分で焼き栗をつくる人も。ドイツの家庭では、ローストした栗の皮をむいたら、バター(無塩)を塗り、塩を振ってジャガバターのごとく楽しむそうだ。

毎年10月末~11月にかけて、ヨーロッパの栗の産地では栗祭りを開催。焼き栗はもちろん、栗を使ったスイーツや料理、多彩な栗の加工品も揃うおいしく楽しいお祭りだ。この時期、ヨーロッパを訪れる機会がある方、ぜひ訪ねてみてはいかがだろうか?

並木麻輝子(なみきまきこ)

料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家
パリの料理学校ル・コルドン・ブルーの製菓・料理上級課程終了。ヨーロッパ各地の料理・菓子を舌で確認しながら自ら取材した経験を生かし、書籍、雑誌、ガイドブック等を執筆する傍、コメンテーター、大学の生涯学習クラスやカルチャースクール講師、テレビ、ラジオ番組制作コーディネーター、レストラン等のアドバイザー、講演など食関係のあらゆる分野で活躍中。

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