料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家 並木麻輝子のお菓子な歳時記| SALUS ONLINE MARKET
  1. SALUS ONLINE MARKET
  2. 並木麻輝子のお菓子な歳時記
並木麻輝子のお菓子な歳時記

2019.12.01

ベルギーのクリスマス菓子、スペキュロス

ベルギーにはサンタが2度やってくる?!

キリスト教国にとってクリスマスは年間最大のイベント。日本もそろそろクリスマスの雰囲気が漂いはじめたけれど、ヨーロッパの国々では、すでに11月の初旬頃からツリーに飾るオーナメントをはじめ、多彩なクリスマス商品があちこちの店頭に登場。どの町もクリスマス仕様の華やかな装飾に彩られ、11月の下旬頃からは各地でクリスマス市もはじまってヨーロッパ中がクリスマスムード一色に包まれる。

ところで、ベルギーには12月25日のクリスマスとは別に、もう1日、「子どものためのクリスマス」があるのをご存知だろうか?  フランス語では「サン・ニコラ祭」と呼ばれ、毎年、聖ニコラの命日である12月6日に開催。この日は子どもたちが、サン・ニコラからプレゼントをもらう日として定着している。ちなみにベルギーでは南部ワロン地方がフランス語圏、北部のフランドル地方はオランダ語のベルギー方言ともいえるフラマン語を用い、「サン・ニコラ」はフラマン語圏では「シンタクラース」と呼ばれている。ほかにフランス北部やオランダ、ドイツ、オーストリア、ルクセンブルグなどにも同じ習慣があるけれど、内容は土地により微妙に異なる。

「お出迎えの準備」は念入りに

サン・ニコラ(シンタクラース)は紀元300年前後に実在していたキリスト教の司祭で、小アジアのローマ帝国リュキアのミラ(現トルコ)にて大主教をつとめた人物。とくに子どもの守護聖人として崇拝され、子どもを救った逸話も多々。なかでも、悪い肉屋に切り刻まれ、塩漬けにされていた3人の子どもを生き返らせた話は有名だ。「シンタクラース」という響きからも想像がつく通り、この方がサンタクロースのモデルになったとも言われている。

毎年、「サン・ニコラ祭」のイブ、つまり12月5日の夜にプレゼントを詰めた大きな袋を携え、トナカイではなくロバにまたがり到来。白髪に白くて長い顎髭、十字架の模様を配した赤い司祭帽に深紅のローブ、金色の司教杖といういでたちで、かならず黒人の従者ズワルトピートを伴っている。おもしろいのは、よい子にはプレゼントをくれるけれど、悪い子にはピートがお仕置きをするという点。そのため、12月が近付くとどこの家の子も急に聞きわけがよくなるそう。5日の夜、子どもたちはロバのために角砂糖やニンジンを、さらに家によってはサン・ニコラのためにお酒かコーヒーを、ピートのためにビールか水を用意し、ときには手紙を添えたり、お出迎えの歌を歌い、ワクワクしながら眠りにつく。翌朝起きると、砂糖や野菜が無くなり、飲み物も飲み干されていたり、人によってはロバが(親が)かじった人参をわざと転がしておいたり、足跡をつけておくなどの演出も。そして子ども部屋やリビング(親の都合により場所は家ごとに異なる)に、サン・ニコラからのプレゼントが置いてあるというぐあい。もちろん子どもたちは朝から大喜び。学校でも「窓から後ろ姿を見た」だの、「ロバが外を歩いている音を聞いた」だの、サン・ニコラの話題でもちきりだ。

クリスマスシーズンを彩るスパイスクッキー

この祭りに欠かせないお菓子が、チョコレートやゴーフル(ワッフル)と並ぶ、ベルギー名物菓子の一つ「スペキュロス」。生地にシナモン、クローブなど数種の香辛料とブラウンシュガーを加えたスパイスクッキーで、香ばしい風味と少し固めのカリッとした食感が特徴。現在は工場製のものも多く出回り、通年買うことができるけれど、やはりサン・ニコラ祭の時期は格別だ。シンプルな四角形や丸形から、犬、猫などの動物、家や人、サン・ニコラを象ったものまで、ビスケット専門店はもちろん、普段は作っていないお店にも時期限定のスペキュロスが並ぶ。ちなみに、Spéculoos という名は、ラテン語で鏡を意味する「speculum」からきていると言われている。生地を木型に入れ、焼成後にひっくり返して取り出すと、生地と型が互いに鏡に映ったように見えるからとか。ほかにも、オランダ語でスパイスを意味する「Specerij」から派生したなど、ご多分に漏れず諸説ある。

サン・ニコラとは関係ないが、くだいたスペキュロスに覆われた「ル・ヴィレ」というチーズや、スペキュロス風味のアイスやケーキ、チョコ、パンに塗るスプレッドやジャム、スペキュロス味のリキュールなど、スペキュロスの副産物たちも、機会があったらぜひ試してほしい。

並木麻輝子(なみきまきこ)

料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家
パリの料理学校ル・コルドン・ブルーの製菓・料理上級課程終了。ヨーロッパ各地の料理・菓子を舌で確認しながら自ら取材した経験を生かし、書籍、雑誌、ガイドブック等を執筆する傍、コメンテーター、大学の生涯学習クラスやカルチャースクール講師、テレビ、ラジオ番組制作コーディネーター、レストラン等のアドバイザー、講演など食関係のあらゆる分野で活躍中。

バックナンバー

ページトップ