料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家 並木麻輝子のお菓子な歳時記| SALUS ONLINE MARKET
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並木麻輝子のお菓子な歳時記

2020.01.01

ギリシャの新年に欠かせない「ヴァシロピタ」

中に陶製の宝物を忍ばせた、フランスのアーモンドクリーム入りのパイ「ガレット・デ・ロワ」は日本でもずいぶん定着してきたけれど、ほかの国々にも、中に何かを隠したお菓子が数多く存在する。その中から、今回はギリシャの新年を彩る「ヴァシロピタ」と、それを取り巻く風習を紹介しよう。

家族で楽しむ「切り分けの儀式」

ちなみに、ギリシャのサンタクロースは出足が遅く、なんと新年にやってくる。正確には大晦日の夜中に訪れ、元旦の朝起きてくるとプレゼントが届いているというぐあい。他国同様、クリスマスは12月25日に祝うため、ちゃっかり2回プレゼントをもらっている子供も多いとか。ギリシャ版サンタのモデルになっているのは、慈善活動に従事し、多くの人々を救ったことで知られる聖人「アギオス・ヴァシリス」。一般的なサンタクロースとは異なり、色黒、痩せ型、黒髪。知性的で、数々の著書も残した博識な人物だ。キリスト教の国々では、365日それぞれに聖人が割り当てられた暦があるけれど、ギリシャの聖人暦において、1月1日は聖ヴァシリスの日。そして、そのヴァシリスの名前を冠したスイーツが新年限定の「ヴァシロピタ」。 ギリシャにはなぜかクリスマスケーキがないのだが、その分、年末頃から新年名物の「ヴァシロピタ」が、あちこちの店頭に並ぶ。いずれも円形のホール状で、甘いパンタイプと、どっしりとしたパウンドケーキタイプに大別されるけれど、人によってはアーモンドの粉を混ぜたり、オレンジやレモンなど柑橘の風味をつけたり、肉やチーズ入りの塩味系だったり……。家庭で手作りされることも多く、味や配合はさまざまだ。これに関しては、ケーキ自体よりも、「ヴァシロピタ切り分けの儀」ともいえる、食べ方(分け方)がポイント。

まずは家族でケーキを囲み、切り分けは必ず家長が行なう。ヴァシロピタの上で十字を3回きり、新年の幸福を祈ってから入刀。最初の一切れ目はキリストへ、2切れ目は聖母マリア、そして聖ヴァシリス、家長、貧しい人々、家族と続く場合もあれば、キリストの次は家長、残りは家族というように、土地や家庭により、分け方は微妙に異なる。ちなみにこのケーキ、中にアルミホイルに包まれたコインが1枚隠れていて、当たった人には幸せが訪れるという楽しいゲーム付き。職場でも、仕事始めに特大ヴァシロピタを同僚たちと切り分けて、ワイワイと新年の運試しを楽しむそうだ。

縁起をかつぐのは万国共通

ほかに、「1月1日に初めて家に足を踏み入れた人がよい人ならば、1年間その家は安泰」という言い伝えに基づいた「ポダリコ」という儀式も。基本的には「純粋な心を持つ人」ということで、子どもが好まれる。また、たいていの家庭では、「ポダリコ」の儀式と合わせて、ざくろを家の入口前の床に力いっぱい叩きつける「ざくろ割り」も実施。ザクロは種がいっぱい詰まっていることから豊穣や子孫繁栄の象徴とされ、ギリシャでは誰もが認めるラッキーアイテムの一つだ。このとき、種が多く飛び散るほど新しい年がラッキーなことに彩られるという。

ギリシャの冬のホリデー期間を締めくくるのが、1月6日の「エピファネイア(主顕節)」。この日は、キリストがヨルダン川で聖ヨハネから洗礼を受けたことを記念する祝日で、洗礼に先駆けて水を清めたことから、毎年1月6日にギリシャ全土で海や川などの水を清める儀式が行われる。この儀式、司祭が真冬の海に投げ込んだ十字架を、勇気のある若者や子どもたちが底に潜って拾ってくるというもの。いち早く見つけた人は司祭及び神の祝福を受け、1年間幸せに過ごすことができるという。これが終わるとホリデー気分も終幕となる。

もし年末年始にギリシャに行く機会があったら、「ヴァシロピタ」やこれらの行事も思い出してみてほしい。

並木麻輝子(なみきまきこ)

料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家
パリの料理学校ル・コルドン・ブルーの製菓・料理上級課程終了。ヨーロッパ各地の料理・菓子を舌で確認しながら自ら取材した経験を生かし、書籍、雑誌、ガイドブック等を執筆する傍、コメンテーター、大学の生涯学習クラスやカルチャースクール講師、テレビ、ラジオ番組制作コーディネーター、レストラン等のアドバイザー、講演など食関係のあらゆる分野で活躍中。

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