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並木麻輝子のお菓子な歳時記

第12回 カーニバルに花を添えるラ・マンチャの揚げ菓子

2月に入り、西洋諸国(おもにカトリックの土地)ではカーニバル気分に突入。 ちなみに、みなさんはカーニバルと聞くと何を思い浮かべるだろうか? リオのカーニバルのような歌と踊りのパレード、ベネチアのカーニバルに代表される仮装、その他、山車や余興、屋台など、現在はにぎやかなお祭りのイメージが強いけれど、もともとはヨーロッパで中世の頃から育まれてきた宗教行事だ。

そもそもカーニバルってナニ?

カーニバルという言葉はラテン語で「肉を取り去る」=「肉を絶つ」という意味あいの「carne levare」に由来するといわれている。 毎年2月頃に3日~1週間(長いところでは3週間)かけて、盛大に行われるお祭りで、時期は復活祭の準備期間である「四旬節」の直前。キリスト教の復活祭は春分の日以降の最初の満月の次の日曜日に行なわれる移動祝日だが、この日から逆算して、46日前にあたる水曜日(灰の水曜日)が四旬節の開始日。かつてキリストが荒野で40日間断食をしたことにちなみ、伝統的には四旬節の期間中、信者は肉を断ち、断食(または節制)を行なってきたという。ちなみに四旬とは40日間のことだが、期間中に6回ある日曜日は断食の対象日から省いたので、合計すると46日になる。 日本語で謝肉祭と呼ばれる「カーニバル」は、これから迎える断食期間に備え、肉を含むおいしいものをできる限りたくさん食べ、かつ大いに飲んで騒いで楽しんでおこうというのが本来の趣旨。とくにカーニバル最終日(灰の水曜日の前日)は、「マルディグラ」(脂肪の火曜日、謝肉の火曜日)などと呼ばれ、四旬節前に高脂肪な食事を取れる最後のチャンスとばかりに肉や油脂分を摂取し、また卵をはじめ傷みやすい食品を残さず食べ尽くしたとか。カーニバルスイーツというと、国を問わず揚げ菓子や卵を使ったものが多いのはそのためだ。

スペインのカーニバル菓子

各国にさまざまなカーニバルの揚げ菓子があるけれど、いずれにも共通なのが、パッと見はかなり「地味」な点。そんな中、ひときわ目を引くのがスペインのカーニバル名物「フローレス・マンチェガス」。その名も「ラ・マンチャの花」というカスティーリャ=ラ・マンチャ州の伝統菓子で、この菓子専用の長い柄がついた四ツ葉のクローバー似の花型を使うのが特徴だ。作る時には柄の部分を持って粉や卵、水、塩を混ぜた生地を型にまとわせ、揚げ油に投入。サックリと軽い仕上がりに、粉糖やシナモンシュガー、あるいはハチミツをかけていただく。じつはこのお菓子、名前に「花」と冠しつつ、もともとモチーフになっているのは十字架。正確には、十字架をイメージした中世カラトラバ騎士団の紋章に由来する。同騎士団は12世紀にカスティーリャで設立されたシトー会派の戦闘チームにして、スペイン最初の騎士団。団員はなんとすべて僧侶たちから構成され、どんな苦闘にも無欲で望んだというこの騎士団へのオマージュが込められたお菓子だ。

ほかにも、アニス酒やレモンの皮で風味づけした薄い生地を、四角く切ってサクッと揚げたガリシア生まれの「オレハス・デ・カルナバル(カーニバルの耳)」や、柑橘やシナモン風味のカスタードクリームを揚げた「レチェ・フリータ(直訳は牛乳のフライ)」、スペイン風フレンチトースト「トリハス」。これは塩味のものもあるし、なんとワインに浸して作るタイプもある。「フリシュエーロス・デ・アストゥリアス(アストゥリアス風クレープ)」には、リンゴのコンポートや好みのソース、フィリングを合わせて。その他フワフワのカナリア諸島風カーニバルのパンケーキ「トルティーヤ・カナリアス・デ・カルナヴァル」や、小ぶりで軽やかな揚げドーナッツに、砂糖をふったりクリームを詰めた定番中の定番「ブニュエロス・デ・ビエント」など、スペインには多彩なカーニバル菓子が存在する。

ちなみに現在は断食をする人はほとんどおらず、また開催日や期間も場所によりまちまち。四旬節に入ってからカーニバルを行なうところも少なくないけれど、祭りの伝統だけは各地で脈々と受け継がれている。

並木麻輝子(なみきまきこ)

料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家
パリの料理学校ル・コルドン・ブルーの製菓・料理上級課程終了。ヨーロッパ各地の料理・菓子を舌で確認しながら自ら取材した経験を生かし、書籍、雑誌、ガイドブック等を執筆する傍、コメンテーター、大学の生涯学習クラスやカルチャースクール講師、テレビ、ラジオ番組制作コーディネーター、レストラン等のアドバイザー、講演など食関係のあらゆる分野で活躍中。

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