料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家 並木麻輝子のお菓子な歳時記| SALUS ONLINE MARKET
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並木麻輝子のお菓子な歳時記

2020.04.01

フィンランドのイースターに欠かせない黒と白のデザート

今回は昨年のこの時期と同様、イースターのお話を。ひとくちにイースターと言っても祝い方も食べ物も各地各様。そんな中から、ここではちょっとユニークなフィンランドのイースターをご紹介しよう。
イースターの日本語訳は「復活祭」。十字架にかけられて亡くなったキリストが3日目に復活したことを祝う祭事だ。2020年のイースターは4月12日だが、基本的に「春分のあとの最初の満月の次の日曜日」に祝うため日付は毎年変動する。多くの国では、復活祭前の聖金曜日から、復活祭翌日の聖月曜日まで4連休となり、学校や職場もお休みに。この休暇中は、たいていの人が実家に帰省したり田舎の別荘などに移動し、家族とともにのんびりと過ごす。

かわいい魔女がやってくる「ヴィルポミネン」

フィンランドではイースター1週間前の日曜日に「ヴィルポミネン」というイベントが行なわれる。
もともとはフィンランド南東部・カレリア地方からきた習慣で、この日は子どもたちが魔女に扮して近所の家々を訪問。ドアを開けてくれた人に幸せと健康を願う呪文を唱えると、お返しにお菓子や硬貨がもらえるというもの。魔女といっても黒装束ではなく、お母さんの昔の洋服などにエプロン、頭にはスカーフを巻き、全体的に春っぽくカラフルないでたち。頬は田舎娘風に赤く塗り、そばかすもプラス。片手には色とりどりの羽やリボンをつけたネコヤナギの枝、反対の手にヤカン(またはカゴ)をさげ、この中にお菓子や小銭を入れてもらうというぐあい。

真っ黒な見た目に驚くイースターの伝統菓子

フィンランドのイースターに欠かせない食べ物といえば何をおいても「マンミ」。世界各国、ウサギや羊、卵、ニワトリ型のチョコや焼き菓子など、復活祭を彩るキュートなお菓子は多々あるけれど、それらと一線を画す異色のイースタースイーツがコレ。パッと見はチョコレート菓子のようだが、材料はライ麦、ライ麦の麦芽、糖蜜、オレンジの皮、水、塩。これらをまぜ、型に入れてオーブンで3~4時間焼いたもので、焼成後3~4日間冷蔵庫で寝かせてから食べる。食感は少しねっとりとしたとろみの強いペースト状。甘みは薄めで、ビールのようなほろ苦さとライ麦の酸味、さらにざらっとした食感が重なってかなり個性的な味わい。伝統的には食べる時に牛乳か生クリーム、砂糖をかけ、丸みと甘みをプラスしていただく。その他、バニラソースやバニラアイスとも好相性。その昔は各家庭で手作りされていたが、現在は市販品を買う方が一般的だ。
歴史は古く、フィンランドがまだローマカトリックの国であり、スウェーデンの一部だった13世紀ごろから、ほぼ同じものが南西部で食べられていたという。文献にはじめて登場したのは1700年代で、当時は白樺の樹皮を用いた入れ物で貯蔵していたとか。といっても他の地方ではほとんど見かけられず、フィンランド全域に普及したのは1930年代ごろになってからだそう。
フィンランド人の中でも好き嫌いが別れるお菓子だが、それでもこの時期の風物詩として愛され、誰もが毎年1度は食しているという。個々の好みに関係なく「イースターにはマンミを食べる」というのは、不動の伝統としてフィンランド人の心とDNAにすり込まれているようだ。

ロシアから伝播した白いデザート

マンミに続く、もう一つのイースター名物が「パシャ」。こちらは、濃度の強いヨーグルトのようなフレッシュチーズ「Rahka(ラハカ)」をベースに、卵、クリーム、バター、砂糖などを合わせ、好みでドライフルーツなども加えて固めたレアチーズ状のデザートだ。もともとは、ロシア正教の復活祭の菓子がロシアと隣接するカレリア地方に伝わり、徐々にフィンランド全土に広まったという。ロシア語ではパスハと呼ばれ、一説には10世紀末ごろ、中央アジアの遊牧民がロシアに持ち込んだ乳製品が誕生のきっかけになったとか。今は、この時期になるとスーパーマーケットなどでカップ入りのタイプも売られているけれど、伝統的には四角錐台状(てっぺんを落としたピラミッド状)に成形。白い仕上がりはキリストの純潔、神の仔羊、復活の喜びを表現しているそうだ。

黒と白のスイーツに彩られたフィンランドのイースター。キリストの復活を祝うとともに、冬が長い北欧の人びとにとっては、待ちわびた春の到来を祝う日であることも覚えておこう。

並木麻輝子(なみきまきこ)

料理ジャーナリスト ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家
パリの料理学校ル・コルドン・ブルーの製菓・料理上級課程終了。ヨーロッパ各地の料理・菓子を舌で確認しながら自ら取材した経験を生かし、書籍、雑誌、ガイドブック等を執筆する傍、コメンテーター、大学の生涯学習クラスやカルチャースクール講師、テレビ、ラジオ番組制作コーディネーター、レストラン等のアドバイザー、講演など食関係のあらゆる分野で活躍中。

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